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渡辺啓子/油絵
個展タイトル "An Encounter in the City"
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「NYの空気は、私からすべての言い訳を取り除き、錆びそうになる感覚を敏感にしてくれます」とNYCooギャラリーのオーナーであり、今回個展を開催する渡辺啓子は云う。
「そして何事も安易にまとめてしまおうとする気持ちを壊して新鮮な気持ちを与えてくれ、他人によくみせようと取り繕ってしまいそうな私に疑問を感じさせ、恥ずかしいからと隠してしまいそうな事を堂々と表現させてくれます。
この街には不思議なパワーがあります。世界中から来た人種が個性豊かに生活しているせいか、自己主張をハッキリしないと押しつぶされそうに感じることも あります。でも、その反面とてもシンプルな感覚でいられるところです」
画廊経営については、「Art Director業をしながら、たくさんの作品に出会い、作家たちと交流することでエネルギーをもらいながら、客観的に作品が理解できるようになっていた。NYの基地として社会に繋がっていくように、また、新人のアーティストにとっては、デビューのきっかけになるように、ギャラリ−業をがんばりたい」と云う。
渡辺は1998年ニューヨーク移住以前、東京で11回の個展をアクリル、パステル、コンピューターグラフィック作品で開催している。今回の個展作品はニュ−ヨ−クの生活環境をテ−マにした油絵で、前3回の個展の作品の延長線上に位置される。画面全体が暖色系の色彩で統一され、十数階の細長いアパ−ト 様の建物が密着し並列し、遠方にも重なって見えるイメージが画面一杯に描かれている。
それは写実的な特定の場の風景ではなく、このアーティストの持つ観念的な「街」と 云う心象的ビジョンなのである。
空の雲は夕焼けのような色でゆったりと街の上方に渦を巻く。ふと観る者を郷愁の世界に誘う。
渡辺は「建物の窓の中の色々な生活に興味を引かれる」と云う。この興味は地下鉄の車掌をしていてブルックリン、クイーンの高架線の上を走る車両からアパートの窓の内を覗き、箱の作品を作った Joseph Cornellの興味とは全く異なる。
この作家の画面上に無数に散在する小さな窓は常に淡いピンク、心良いブルーなどで塗られている。Cornellの 作品に表現された現代社会の相克性とは正反対なもの、都市社会のユ−トピア観とも云うべきものを見い出す。はたして、この観点は何処から来て、何処に行くのだろう。油絵の具が持つ因習が作家をしてそうさせたのだろうか。新作を見てもう一度ならず考えたい。
この個展の題名である "An Encounter in the City"は「何か予想がつかない事が起きる街、ニューヨークの活気はじっとしていてもホットできる。街を歩いているだけで、絵が見えてくる」と語る 渡辺の発想に由来する。
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