9月の展覧会

山野敬子リヒテンシュタイン心象画展「命の輝き」

2006年9月6日(水)〜23日(土)

レセプション:9月8日(金)午後5−7時30分

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開画廊時間 :火〜土 12:00-6:00PM (閉館日 日曜日・月曜日)

 

山野 敬子展

山野敬子は2000年に起きた人生の転機から絵を描き始めた。クモ膜下出血から魂が肉体を離れる臨死体験に見た光りに溢れた世界を描きたい云う。又、回復期に外に出た時の感動、草花が描いてくれと叫んでいる呼び声が薄れる前に描き留めたいとも云う。同時にオーストリアとスイスに挟まれた小国リヒテンシュタインに移り住み、その地の四季の変化に魅了された事、それは反面、出自を強く認識する契機となり、日本の風土、文化を懐かしむ心が芽生えた事、と描く為の動因に事欠かない。山野は,絵を描く事により再生の生命力を与えられた、その絵が持つエネルギーを観る人に感じて貰いたい,と願っている。

この個展出品作品は80x100cmが4ー5点、100x40cmの作品が2ー3点を含む合計22ー3点で、「旅立ち」「月光を浴びて」「シャーンの森」「林檎園」「かぐや姫」「竹取物語」「帯のものがたり」「風」「南仏の家」「狐と鹿」「物思う」等と題名が付いている。画面の焦点をほぼ中央かやや高めに置き花、樹木、道、森、人物、動物、建物などが彩度の高い色彩の中に半具象、半抽象的に描かれている。
 昨年11月の代官山ヒルサイドギャラリ−個展作品群は自称ハイジの世界に移り住んだと云う物理的条件が濃く出ていると印象付ける。スイスの作家Johanna Spyri(1827ー1901)の原作「Heidi」(1880発行)は少女Heidiと車椅子に坐った少女Claraの癒しの物語り、世界に20以上の映画、TVへのアダプテイションが在るが、その中で最も世界の人々の心を奪ったのは宮崎はやお、高畑功のアニメ「アルプスの少女ハイジ」(1974作)であろう。このハイジの地はリ)テンシュタインとの国境に隣接したKanton Graubundendenである。リキテンシュタインの面積はワシントンDCより小さいのだから、正に「ハイジの世界に移り住んだ」訳だ。

今回の個展作品は画面構成に複雑さと自分なりのイノベイティブさを増しているようだ。横長の作品に波のようにうねるオレンジの帯状の上に遊ぶ動物と草花、特異な作品は簡素な筆跡だけが残る背景に色彩をセイブしながら描かれたトルソの女性像、などが観る者をこの作家の感情の内面に誘う。この作風の変化は、「絵画への目覚めは身体的実感から始まりました」とする即応的な絵画行為から、次の段階、則ち、ヨーロッパにいて出自の違う自分を見い出し、自分の内を見つめての表現の探索を始めた事なのだろう。隣国オーストリアの画家Gustav Klimt(1862ー1918)は山野にとってごく身近な存在だろうし、その作風に触れているのだろう。このアールヌボーの代表的作家は性、再生、愛、死、などの始原的テーマを題材にし、ギリシャローマの古典、ヨーロッパ中世、エジプト、ビサンチン、のほか後期印象派の作家達を通して日本の浮世絵などの影響を受けている。

山野は英文科卒、諸大学英語教師を経て、翻訳業の実績を積んだロゴスの人であった。が、突然に降り掛かった災い、そして生きて還った。この生の喜びを言語表現ではなく視覚芸術に託した。その時に近代美術史のどの部分から入り、どのように自分の絵画領域を広げて行くかが観どころになるだろう。自分が選んで入った異文化圏と出自の日本の文化、感性の狭間は深いかもしれない、しかし豊かな可能性の鉱脈があることをこの作家は見ているのだろう。

 種々な文化が混ぜ合ったニューヨークで、それとは異なった環境で制作された作品に接する事に期待が寄せられます。是非、この山野敬子展に御来廊下さりようお勧め致します。

 

ギャラリーライター:中里斉

 

 

山野敬子 プロフィール

横浜生まれ。慶応義塾大学英文科卒。学習院大、嘉悦大等で英語講師、翻訳業他。
翻訳会社ランゲージハウス、立ち上げ時点のメンバーでもある。

個展:2003年3月日本橋ギャラリー白百合
   2004年11月青山若山古美術ギャラリー
   2005年4月恵比寿厚生中央病院内ギャラリー
   2005年11月代官山ヒルサイドテラスギャラリー   美術団体:二元会所属