上田 隆義 展
「Fusion - アナログペインティングとデジタル出力の融合と混合」
NYCooギャラリーは10月、「上田隆義展」を開催いたします。ここに、御案内申し上げます。
この個展は「Fusion and Mixture of Analog Painting And Digital Production」と題名され、上田の2003年以降の代表作と最近作が展示されます。この作家の制作理念と新しい可能性を探索する姿勢が全面に浮き彫りにされる機会となるでしょう。
この題名は「アナログペインティングとデジタル出力の融合と混合」と訳され、上田の制作への論拠が示されています。しかし、「アナログペインティング」とは何を指しているのだろうか。デジタルと言う単語が我々の生活に初めて使われたのは数字表記の腕時計、テジタルウォッチでしたが、その時、従来の文字盤指針付き腕時計をアナログウォッチと呼んだ。その後コンピュ−タ化の時代が進み、IT革命が起り、その中で育った世代が「従来の筆で描かれた絵画」を指した造語が「アナログペインティング」と呼んだ、多分日本製英語だと思われる。しかし、全ての絵画が「アナログペインティング」と呼べるのだろうかと疑問が残る。音響の分野でデジタルシンササイザー出現以前は全ての音波を電流圧に変え回路に通すアナログシンササイザーであった。2進法のデータによるデジタルデータはDAC(デジタルデータをアナルグに変換する装置)を経て、電流圧となりアンプルファイアー、スピーカーを通って音になる。しかし、シンササイザー(電子回路を用いて音を合成する装置)出現以前から肉声の、また、楽器が奏でる音楽は存在していました。従って、「アナログペインティング」は歴史上の全ての絵画を指すのではなく、サイバー世界で考え、想像している世代が、その対極の手仕事の絵を指して呼んだ名であろう。そして、上田はその双方の融合と混合に、この時代の新たなIMAGEMAKINGの可能性が存在すると信じ、それを制作の本質と定め、探索を続けている。
上田隆義は京都精華大学で造形科洋画を専攻し、現在和歌山県西牟婁郡を制作と生活の地としいている。卒業して数年後の1995年頃からコンピュータを絵画制作の道具として使いはじめ、現在の制作指針を築き、個展、グループ展を重ねている。その中には2004年NYCooギャラリーの公募展デジタル賞受賞、2005年同ギャラリー受賞作家作品展が含まれている。ニューヨークでの個展は今回が最初になる。
上田の制作課程は、ドローイング、コラージュ、立体物の手作業での作成に始まり、スキャニングに進み、Photoshopによりイメージのデジタルデータ化をする。この2課程は反復され、更に得られた画像は併置され、相互反応され、レイヤー(重ね)さられ、消去されると言う課程を経る。この課程の持つ柔軟さは未知の世界、TERRA INCOGNITAに彼を誘う。そして、感性に訴えるある緊迫感に達したイメージは高耐久の顔料インクジェットプリンターでカンバス、版画紙、和紙にプリントアウトされる。カンバス作品は表面を樹脂加工され、更に、複数のイメージが画面に並列され、一枚の矩形の絵が完成する。上田はこの作品をPlural Composition Workと読んでいる。画面には各々の課程を経た異なった色調の部分が並列され、その対比が先ず目に入る。表面的な質感を想像させる部分、ブルー系統の色調で無限な奥行きを思わせる部分、そして、それら部分の間には細い隙間がある。襖絵、屏風絵の複数パネルから得たアイデアであり、単一画面では不可能な空間の存在感を求めた、と作家の説明である。
一点の絵画作品の中に数枚の異なった絵が共存して完成される、とする制作コンセプトを来廊の皆さんはどう観られるだろうか。上田が、物理的存在感が希薄なデジタル出力イメージに、表面を樹脂加工して「作品としての存在価値」を増そうとする試み、にどのように反応されるだろうか。一画面に多要素が共存するコンセプトは現代社会の多基準性の反映であろうし、ポストモダニズムの折衷主義の直接的影響だと思われる。また、画面表面の樹脂加工で果たして「作品の存在感」は補えるのだろうかと興味深くオープニングを待っている。新しく何かを始める時にはいつも解決しなければならない諸々のことが続出する。故に、より楽しみも増す。
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